ボクは絶滅種

格闘技ブームと呼ばれる昨今。
その輝きがまだ鈍色を放つに過ぎなかった時代からこのジャンルにのめり込んで来た。
きっかけはジャッキーチェンだったかプロレスだったかはっきりしないけど、大きな影響をくらったのはUWFが新日に舞い戻ったときだったと思う。
高校では格闘技愛好会のようなものを作って、県の武道館借りて興行みたいなのを売ったりもしたし、大学ではプロ研に入るつもりが、怪しさ満点の非公認の格闘技サークルに入った。
まあ、格闘技ブームと呼ばれるものの黎明期をそれなりに過ごして来たわけで、練習なんかもやったり試合に出たりしていたがそんなに強いわけでもなかったが、素人でも無かったという事だ。

その後色々あって数年間ほど格闘技とは離れていたが、昨年末に転勤したのをきっかけとして、今年からまた始めてみることにした。
俗に『総合格闘技』というものを教える道場で、キックボクシングやブラジリアン柔術レスリングなんかを習える。

素人というわけでもないが、いかんせん強いわけでも無いので多少心得があることは黙っている。
正解だった。
かのグレーシーとノールールの試合形式が日本に流入して以来、総合というジャンルの技術は、『革命』と呼んでもさしつかえないぐらいの発展を遂げている。
ブラジリアン柔術の時間には他の白帯の人たちに嫌というほどやられまくっている。青帯以上なんかもってのほかである。

練習から帰ってきて、痛む腕なんかさすりながらふと考える。
「あー、俺のやってきたことってなんなのかなぁ。」
それなりに短くない時間をかけてやってきた事。それは(多少は知らないよりマシだけど)もう通じない。
かつてキックを教えてもらった先生がいた。型にはまらない面白い人だったが、こんな事を話してくれた。
「最強の格闘技?それはこれだよ、シューティング。バーン!」
修斗のことではありませんでした。銃で相手を撃つのが一番早く効率的だと。
鍛え上げてきた体も銃を持った人間には(一般的に)適わない。格闘技のチャンピオンクラスが銃で命を落とす話など海外ではザラにある。
相手を倒すために最小限の力で最大の効果を上げる。しかも子供や女性でも。その究極の形は武器であり、その中でも銃であろう。
その銃もいつかは役に立たなくなる時代が来るのだろうか。
数万年時代を重ね進化を続けてきた生物も、ちょっとした気候の変動で絶滅を迎える。
万能と考えられた技術も、一人の人間の考えた技術革新で意味を失う。
そんな理不尽で歴史や生物の教科書はいっぱい。
それでも努力を続ける理由とか人間の性なんて論じない。つまらん。
面白いのは、白帯さんたちにスイープされたり、腕極められたりしている自分が、突然姿を消した恐竜や、銃の前に敗れた騎馬軍団、産業革命に敗れた資産家たち、そして銃で撃たれ命を落としたチャンピオン、そんな絶滅した種たちと同じ感覚を擬似体験しているんだということ。
そんな空しさに自分を置くのもまた、無駄なことに体を張る貴族的遊興。
ボクは絶滅種。だれもボクのことなど見返りはしない。
転がる石のように。